『虎のたましい 人魚の涙』 くどうれいん 講談社
2021年に『氷柱の声』(講談社)で芥川賞候補になったくどうれいんの、『わたしを空腹にしないほうがいい』『うたうおばけ』に続く3冊目のエッセイ集。本名の工藤玲音名義では、俳人、歌人としても活躍している。本書の帯には上白石萌音や杉咲花の推薦文が載り、特に上白石萌音は「#木曜日は本曜日」プロジェクトの発表会で、人生を変えた10冊の中に「うたうおばけ」を挙げるなど、著者のファン層は広がっている。
著者は、浮かんでは消えていくとりとめもない思いを、選りすぐりの言葉に変換する非凡な感性の持ち主。「令和の清少納言」とは言い過ぎかもしれないが、著者の書いたエッセイを読んでいると兼好が「心に移りゆくよしなし事をそこはかとなく書きつく」と説明した随筆の本質は、まさにこういうことなのだと実感する。専業作家となったこともあるのか、前2冊のエッセイ集以上に著者自身のことをさらけ出し、「あやしうこそものぐるほしけれ」の感もある。エッセイ集なので著者から作品を切り離すことはできないが、本書はあまりにも著者が出過ぎていて、読んでいて苦しくなる部分もあり、読み終わったあとは複雑な気分に。個人的に著者を知っていることもあり、書かれてあることよりも著者が気になってしまうのはやむを得ないことか。「知人が作家になった」と「作家が知人になった」の違いというのは意外に大きく、テクスト論と作品論の違いということなども思い出してしまった。
作品データ
著者:くどうれいん 発行:講談社 定価:本体1,400円(税別)
虎のたましい人魚の涙 - くどうれいん
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