ビートルズ初心者へ イエスタデイ

イエスタデイ　Yesterday　☆　【ＵＨＤ】



　「トレインスポッティング」や「スラムドック＄ミリオネア」のダニー・ボイルが監督を務めた、ビートルズが消えてしまった世界を描いた2019年のイギリス映画。ドキュメンタリー風にクイーンの時代を描いた「ボヘミアン・ラプソディ」に対し、ＳＦ的な設定の中でビートルズを取り上げた意欲作である。

　イギリスの田舎町に住む元音楽教師のジャック（ヒメーシュ・パテル）は、スーパーの店員をしながら歌手としてメジャーになることを夢見てライブ活動を行っていた。ある日、世界中で原因不明の停電が起こり、自転車で帰宅途中のジャックはバスにはねられて昏睡状態に陥る。退院後、親友のエリー（リリー・ジェームズ）ら友人から快気祝いに新しいギターをプレゼントされたジャックが、ビートルズの「イエスタデイ」を演奏すると、友人たちはビートルズも「イエスタデイ」も全く知らないという。ジャックは帰宅してネットでビートルズを検索するが、この世界にビートルズが存在せず、彼らとその楽曲を知るのは自分だけであることを知る。やがてジャックはビートルズの楽曲で才能あるシンガーソングライターとして注目され、エド・シーランの前座としてモスクワ公演に同行することが決定する。

　私はビートルズ世代からは遅れて育ち、ビートルズにはそれほど愛着があるわけでもない。それでも、周囲にはビートルズの楽曲が溢れていたので、この作品で流れていたもののほとんどは知っている。この作品は、直接ビートルズを取り上げたものではなく、逆にメンバーの個性を無視するものにもなりかねないので、私のような初心者・初級者の方があれこれ難しいことを考えずに楽しめるのかもしれない。

　主演を務めたヒメーシュ・パテルは、イギリスのテレビ俳優でこの作品が映画初主演ということで、既視感のないキャスティングがばっちりはまった。ビートルズの名曲を、スター俳優が歌ったのでは驚きもなく、お約束のサクセス・ストーリーにさえもならない。そして、文字通り彼を脇で支えて説得力を持たせるのが「高慢と偏見とゾンビ」や「マンマ・ミーア！ヒア・ウイ・ゴー」のリリー・ジェームズ。既視感がなさすぎてインパクトに欠けるヒメーシュ・パテルが魅力的に見えていくのは、彼女の存在があってこそなのだ。さらにエド・シーランが本人役で登場して虚構の世界に説得力を持たせていることは言うまでもない。

　ビートルズの楽曲の歌詞にそれほど意識を向けたことはなかったが、この作品ではミュージカル映画さながらに登場人物の心情や物語を描くことに効果的に使われている。曲だけではなく、歌詞の内容にも普遍性があるということなのだろう。楽曲の使い方や、ジャックの他にビートルズを知る２人の存在、暗殺されずに78歳を迎えたジョン・レノンなど、小道具の使い方も巧い。ビートルズに思い入れのある人たちには抵抗があるのかもしれないが、作りが巧いし、見終わって優しい気持ちになれる作品だった。

作品データ
監督：ダニー・ボイル　出演：ヒメーシュ・パテル、リリー・ジェームズ、エド・シーラン他
製作年：2019年　製作国：イギリス


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