日本SF大賞も受賞した荒俣宏のベストセラー『帝都物語』を、10億円の製作費を投入して実相寺昭雄監督が実写映画化した1988年のSF作品。昨年末に加藤保憲が登場する京極夏彦の『虚実妖怪百物語』を買ったので、Amazonのプライムビデオで30年ぶりに見てみることにした。
明治の末年、日本帝国陸軍の将校、加藤保憲(嶋田久作)は、平将門の怨霊を甦らせ、帝都東京の破壊を企てていた。陰陽師である土御門一門の平井保昌(平幹二朗)は、帝都を霊的に守護された都市に改造することを渋沢栄一(勝新太郎)に進言するが、軍部の反対によって退けられ、自分たちで加藤と対決することを覚悟する。一方、平将門の末裔である辰宮洋一郎(石田純一)は、将門のよりしろとして妹の由佳里(姿晴香)が加藤に狙われていることを知り、平井らとともに妹を守ろうとする。
公開当時、私はSF小説ファンだったにもかかわらず、原作を読まずにこの作品を見に行き、さっぱりわけが分からず劇場を出た記憶がある。キャストは豪華だし、当時にしてはVFXもクリーチャー造型にも力が入っていて、大作であることは間違いないのだが、風呂敷を広げすぎてまとめきれていないように感じたのだ。それでも嶋田久作演じる加藤保憲のインパクトは強く、「怪作」という印象だけはいまだに残っている。
今回、プライムビデオで見てみると、改めて驚いたのは大物俳優が勢揃いしていること。勝新太郎、大滝秀治、島田正吾、平幹二朗、西村晃など既に故人となった名優のほか、坂東玉三郎や中村嘉葎雄、宍戸錠なども出演している。石田純一や佐野史郎も当時は若手で、現在の活躍はとても想像できない。女優陣では原田美枝子が凛とした美しさで存在感を発揮している以外は弱い印象だが、一緒に見ていた当時を知らない妻がいちいち声を上げるほどの豪華な出演者だった。
物語の背景など原作の広がりを考えると『帝都物語』の世界を2時間にまとまるのは非常に難しい。しかも当時はまだ博覧強記な荒俣宏の世界に十分に付いていける観客は多くなく、監督もあの実相寺昭雄なのだ。SF小説ファンの私でも原作を読まずにこの映画は十分に理解できなかったのだから、一般の映画ファンはもっと戸惑ったに違いなく、難解という多くの評価も頷ける。しかし、歴史に材をとったSFや伝奇SFが定着した30年後に見直してみると、それほど分かりにくいわけではない。
魔人、加藤保憲が暗躍していたことはほとんどの人間には知られておらず、歴史の上では「関東大震災という大きな災いがありました」というだけの話なのだが、1作目を見ると同じくプライムビデオにラインナップされている「帝都大戦」も見ないわけにはいかなくなった。
作品データ
監督:実相寺昭雄 出演:勝新太郎、嶋田久作、原田美枝子他
製作年:1988年 製作国:日本
次はこれ買う!
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