ちばるりこ作 シライシユウコ絵 ☆ 【学研プラス】
上越市・小川未明文学賞委員会主催の第26回小川未明文学賞大賞受賞作品。亡くなった母の故郷・遠野を訪れた小学校6年生の少女が、そこに住む人々や母が遺した絵との出会いを通じて成長していく物語。
小学校6年生の紗里奈は、中学校の美術教師の父、2歳下の弟・時哉と暮らしている。母は時哉を産んでまもなく亡くなった。紗里奈は絵を描くことが大好きだったが、5年生のときにコンクールで最優秀賞を受賞した絵画が父に描いてもらったものだと級友に噂されて以来、絵を描く気になれないでいた。親友との関係も怪しくなり、紗里奈は夏休みに母の故郷である岩手県遠野市の祖母を訪ねる。「とおの物語研究所」で母と高校の同級生であった高木さんと知り合い、彼女の導きで西清院という寺院で、かつて母も魅せられた「供養絵」に出会う。
身近な人の死を主題としており、残された者たちが悲しみや喪失感をどう受け入れて生きていくかが、押しつけがましくなく、子どもが読んでも感じ取れるように書かれている。ジャンルは「児童文学」ということになるのだろうが、大人でも十分読み応えがあり、最近涙腺が弱くなった50代の私は何度も涙を拭わずには読むことができなかった。家族や友人との関係、愛する人との別れなどのテーマが縦糸、遠野の風物や歴史が横糸となり、ちょっとよくばりすぎかも、と思えるほどの盛りだくさんの内容が巧みに織り上げられている。前半がやや説明的であることと、紗里奈が小学校6年生にしてはずいぶん大人っぽいところが気になったが、後半は物語の中にグイグイと引き込まれてしまった。
作者のファンである中学生の娘のためにこの作品を購入したが、どんな感想を持つのか聞くのが楽しみである。
〔作〕ちばるりこ
岩手県盛岡市在住。日本福祉大学卒。
「ふろむ」同人。岩手児童文学の会会員。
〔絵〕シライシユウコ
イラストレーター。挿画を担当した主な書籍に『ハーモニー』(伊藤計劃・著/早川書房)、「乙女」シリーズ(折原みと・著/ポプラ社)、「名作転生」シリーズ(学研)など。
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