「宇宙最強」のドニー・イェン主演による現代を舞台にした武侠映画。香港のカンフー映画へのリスペクトをこめて、カンフー映画に携わった多くの映画人がカメオ出演していることでも話題になった。もちろん、ドニー・イェンはアクション監督も務めている。
ハーハウ・モウ(ドニー・イェン)は警察の武術教官を務めていたが、一門の名を挙げるための私闘で相手を殺し、5年の刑で服役していた。その頃、香港では各流派のトップの武術家たちが次々に殺される事件が起き、ロク警部(チャーリー・ヤン)は、武術界に詳しいハーハウを仮出所させて捜査への協力を仰ぎ、彼の妹弟子シン(ミシェル・バイ)も加わって犯人の正体に迫る。
「カンフー・ジャングル」という邦題は、英題そのものでもあるので日本版制作スタッフに文句は言えないが、チャウ・シンチー主演のコメディ映画のようで、かなり損をしているような気がする。武術の優劣を決めるために武術家を次々と殺していくという犯人のナンセンスな動機も、この映画では意外に違和感がない。現代を舞台にしながらも、上手にファンタジーの世界に見る者を誘っているのだ。時代物の武侠映画のように人間が宙を飛ぶようなことはないが、説得力のあるアクションとスピード感のある警察の動きが、荒唐無稽な犯人の動機を緊張感あふれる物語として成立させているのだ。決して「カンフー・ハッスル」の続編などではない。
短髪のドニー・イェンは年齢不詳で最初のうちは多少の違和感もあるが、キャラクター的にはそれほど無理している感じはない。彼は私より2歳年上だが、全くアクションに衰えは見られない。ジャッキー・チェンやジェット・リー、タイ映画のトニー・ジャーなど、見る者を唸らせるアクション俳優は他にもいるが、彼ほど緻密な殺陣にこだわるアクション俳優・監督はいないのではないか。彼の設計するアクションは、タイ映画ほど痛みが伝わるわけではないが、ジャッキー・チェンやジェット・リー以上にスピード感と重みがあり、さらに惚れ惚れするような華麗さがある。敵役を務めたワン・バオチャンも若い頃に少林寺で修行をしていただけあってドニーと闘っても決して見劣りしていなかった。上海国際映画祭でアクション映画の最優秀新人賞も納得できる。
アクションがメインの映画ではあるが、ドラマの部分も手を抜いていない。チャーリー・ヤンは、最近の香港映画ではよく見られる女性警部の役だが、ドラマの部分をしっかり締めており、ヒロインを演じたミシェル・バイも大きな瞳で、ドニーの妹弟子の役を凛と演じて好印象。
キャスト、ストーリー、アクションの全体的なバランスも絶妙で、これはなかなかの掘り出し物だった。
作品データ
監督:テディ・チャン 出演:ドニー・イェン、ワン・バオチャン、ミシェル・バイ他
製作年:2014年 製作国:中国、香港
次はこれ買う!
この記事へのコメント