ソ連時代に解散を余儀なくされたオーケストラの30年後の再結成と、人気ソリストを迎えてパリ公演を成功させるまでを描いた2009年のフランス映画。実際に2001年に香港で起きた偽ボリショイ交響楽団のコンサート事件と、1980年代に旧ソ連で行われたユダヤ人排斥運動に着想を得て作られたとのこと。
旧ソ連のブレジネフ政権下、ユダヤ人排斥運動に反対してボリショイ交響楽団を解雇された指揮者のアンドレイ・フィリポフ(アレクセイ・グシュコブ)は、30年間ボリショイ劇場の清掃員として働きながら、演奏途中で中断されたチャイコフスキーのバイオリン協奏曲への思いを断ち切れずにいた。パリの劇場から届いたボリショイ交響楽団への出演依頼のFAXを手にしたアンドレイは、追放された仲間たちを捜し出してオーケストラを再結成し、ボリショイ交響楽団になりすましてバイオリン協奏曲を演奏しようと動き出す。人気バイオリニストのアンヌ=マリー・ジャケ(メラニー・ロラン)をソリストとして引っ張り出すことに成功したアンドレイだが、彼女には彼女自身も知らないボリショイ交響楽団との因縁があるのだった。
「オーケストラ!」というタイトル以外の予備知識がなかったため、手元にあった作品の中で鑑賞を後回しにしていた。フランス映画でこのタイトルだとすれば、傑作には違いないが、重苦しい芸術作品に違いないと思い込んでいたのだ。ところが、作品冒頭こそ重苦しいが、すぐに物語が面白おかしく動き始める。面白おかしくといっても、下品なおかしさではなく、フランス映画らしいウィットに富んだおかしさなのだ。かつてのオーケストラのメンバーが生活のためにそれぞれ音楽とは全く関係のない仕事をしているところも面白いし、オーケストラを解散に追い込んだ旧ソ連共産党がいまでは野党になって落ちぶれているところもおかしい。
主演のアレクセイ・グシュコブはポーランド出身の俳優で、トミー・リー・ジョーンズにも少し似ている。いかにもロシア人指揮者といった雰囲気があり、彼が真面目に動けば動くほど、対照的に周囲のドタバタが際立ってくる。また、ヒロインのメラニー・ロランもよかった。彼女は「イングロリアス・バスターズ」や「グランド・イリュージョン」でも美人だと思ったが、両親を知らないバイオリニストという薄幸な美人がバッチリはまり、しかもストーリーの上で色恋沙汰に絡まなかったこともさらに好印象。
タイトルで妙な先入観を持ち、鑑賞を後回しにしたことが悔やまれる面白い作品だった。
作品データ
監督:ラデュ・ミヘイレアニュ 出演:アレクセイ・グシュコブ、メラニー・ロラン他
製作年:2009年 製作国:フランス
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