第64回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞したウェス・アンダーソン監督の作品。ウェス・アンダーソンはアメリカ人だが、この作品はドイツとフランスの合作で、20世紀前半のモノクロ映画やヨーロッパ映画のような、軽快ながら落ち着いた雰囲気がある。注意してみないと気づかないが、主役のレイフ・ファインズ以外にも、エイドリアン・ブロディ、ジェフ・ゴールドブラム、ジュード・ロウ、ビル・マーレイ、シアーシャ・ローナンなどそうそうたる顔ぶれが出演している。一見してわかるのはウィレム・デフォーくらいか。
「グランド・ブダペスト・ホテル」のオーナーであるミスター・ムスタファ(F・マーリー・エイブラハム)は、1930年代にコンシェルジュを務めていたムッシュ・グスタヴ(レイフ・ファインズ)との出会いを、滞在している作家に語り始める。当時、ホテル常連客のマダム・Dが亡くなり、彼女の遺言でグスタヴに名画「リンゴを持つ少年」が譲られようとしていた。しかし、遺産を独り占めしようとしていた息子ドミトリー(エイドリアン・ブロディ)は、母を殺した罪をグスタヴに着せて彼は投獄されてしまう。脱獄したグスタヴは、ベルボーイのゼロとともにドミトリーが放った追っ手ジョプリング(ウィレム・デフォー)を逃れてヨーロッパを逃げ回る。
映像や音楽の雰囲気は「アーティスト」のような「古き佳き時代」を懐かしむ映画かと思わせるが、コンシェルジュのグスタヴとベルボーイのゼロとの間に交わされる軽妙な会話にぐっと引き込まれる。皮肉とユーモアが利き、それだけでも楽しいうえに、実はこの作品はサスペンス映画だったのだ。刑務所を脱獄し、追っ手のジョプリングが登場してからは、ドキドキハラハラの連続。さらにゼロとアガサ(シアーシャ・ローナン)とのロマンスも加わり、様々な要素がバランスよく配分されている。そしてグスタヴの最期はちょっぴり悲しく、楽しいだけの作品には終わっていない。決してインパクトは強くないが、ジワジワと心に染みてくる作品である。最後まで見終わって「やられた」と感じるのだ。
さて、日本でホテルのコンシェルジュに相当するのは何だろう。温泉旅館の女将だろうか。だとすれば、日本で「グランド・ブダペスト・ホテル」に対抗しうるのは、東ちづるの「温泉若おかみの殺人推理」になるのかもしれない。
作品データ
監督:ウェス・アンダーソン 出演:レイフ・ファインズ、F・マーリー・エイブラハム他
製作年:2014年 製作国:ドイツ、フランス
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