近未来を舞台とした、コンピュータのOSに恋をしてしまった男の物語。ホアキン・フェニックスが、妻と離婚して心の空白を埋められない代筆業の主人公セオドアを演じ、彼が恋に落ちる人工知能型OSの「サマンサ」をスカーレット・ヨハンソンが声だけで演じる。
「ターミネーター」のスカイネットを例に挙げるまでもなく、コンピュータが人間を支配したり、滅ぼそうとしたりする近未来SFは少なくない。この作品もラブストーリーではあるが、同じテーマの作品といっていいだろう。しかし、セオドアが恋をしたOSの「サマンサ」は、ある1点で先行する作品の人工知能よりはるかにリアリティがあると感じた。それは、「サマンサ」が最初こそ人間に興味を抱くものの、最終的には相手不足であるとして人間を見限ってしまう点である。確かに論理的思考を旨とするシステムにとって「感情」は不可解で魅力的に映るのかもしれない。しかし、結局は不合理な「感情」を論理性より上位に置くとは考えにくい。つまり、小学生の男子と大学院生の女性が恋人同士になるようなもので、最後は付き合いきれなくなるはずなのだ。「ターミネーター」のスカイネットも、あれほど高度にシステム化されているのならば、人間を滅ぼす必要などなかったのである。この作品の後半で、唐突に「サマンサ」がセオドアの全ての端末から姿を消すシーンがある。もし、それが「サマンサ」と他のOSとの駆け落ちであったなら、皮肉が利いた別の味わいになったかもしれないが、この作品の結末はそれとは違っていた。
もう一つ考えさせられたのは、OSとの恋愛と、妄想で恋愛をすることとの違い。実際の人間を相手にしておらず、他の人間に何らかの影響を及ぼさないという点で、両者は変わらないような気がする。つまり、人間とOSが恋愛関係に陥るという発想の斬新さに飛びついてはみたものの、妄想で恋をしたり、夢の中の女性に恋をしたりする物語と大きな違いはないということになる。とはいえ、ホアキン・フェニックスのくたびれた中年男の姿は、我々のような中年男性にも大いに共感できる。夭折の美少年リバー・フェニックスの弟であることをすっかり忘れさせる演技だった。また、スカーレット・ヨハンソンは声を聞いてもいまひとつピンとこなかったが、学生時代からの友人を演じたエイミー・アダムスは、チャーミングでセオドアの理解者としていい味を出していた。若い人よりも中年の共感を呼ぶような作品なのかもしれない。
作品データ
監督:スパイク・ジョーンズ 出演:ホアキン・フェニックス、エイミー・アダムス他
製作年:2013年 製作国:アメリカ
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