ジュンパ・ラヒリの小説『その名にちなんで』を映画化したもので、インドからアメリカに移住した父親アショケと、ニューヨークに生まれ育った息子ゴーゴリの、文豪ゴーゴリにちなんで名付けられた彼の名前を巡るヒューマン・ドラマ。移民のアイデンティティや家族愛が描かれている。
監督のミーラー・ナーイルはインド出身ではあるものの、現在はアメリカを中心に活動しており、この作品もインド映画というよりもアメリカ映画といった方がいいのかもしれない。出演者たちも国外の作品での活躍がめざましい。イルファン・カーンはこの作品で注目され、「スラムドッグ$ミリオネア」や「ライフ・オブ・パイ」をはじめとして、ハリウッド映画にも数多く出演し、最も活躍しているインド人俳優といえる。もっとも、この作品はマイノリティのアイデンティティを描いている点で普遍性があり、アメリカ映画だとかインド映画だとか分類することに意味はないのかもしれない。
主人公の名前がドラマの中心となるのは、先日見た「アラジン」とも共通するところである。おそらく、実際にインドでは命名にまつわる様々なドラマがあるのだろう。インドには宗教やカーストなど複雑な背景があるのだろうが、日本も夫婦別姓の議論からもうかがえるように、「名前」に関しては様々なドラマがありそう。まして、きらきらネームがこれだけ広がってくると、日本の文学や映画でも同様なテーマが次々と出てくるかもしれない。
この作品は、主人公ゴーゴリ(カル・ペン)よりも、父親アショケ(イルファン・カーン)と母親アシマ(タブー)のドラマの方が印象深い。自分が親の立場で見てしまうせいだろうか、息子の思いを静かに受け止めようとする両親の姿に胸を打たれた。
「インド映画」のつもりで見始めた作品だが、国籍などは関係のないヒューマン・ドラマを堪能できた。いままでこの作品に出会っていなかったことが、少し悔しい。
作品データ
監督:ミーラー・ナーイル 出演:カル・ペン、タブー、イルファン・カーン他
製作年:2006年 製作国:アメリカ、インド
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