第64回ベルリン国際映画祭で、黒木華が最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞し、話題になった作品。中島京子による原作は、第143回直木賞を受賞した。
昭和十年代、赤い三角屋根の「小さいおうち」に住む平井家の女中として働いていたタキ(黒木華)が、平井家の奥様・時子(松たか子)と夫の部下・板倉(吉岡秀隆)の「密やかな恋愛」について回想する。晩年のタキ(倍賞千恵子)が、親類の若者・健史(妻夫木聡)に書き遺した自叙伝によって物語が進められる。
ストーリーの柱となっているのは時子と板倉の「不倫」であり、板倉に心を動かされる松たか子が何とも色っぽい。2人の愛情表現は決してあからさまなものではなく、いかにも山田洋次監督ならではといえるのだが、妙にドキドキさせられた。そうはいっても、この作品は単なる恋愛映画ではない。登場人物の回想の形で、戦争へとひた走った日本で、人々が否応なくその流れの中に巻き込まれていったことが苦々しく語られる。「山田組」の常連たちが安定感のある演技で脇を固め、ノスタルジックながら危うげな世界を作り上げていた。「男はつらいよ」のファンとしては、さくらと満男が重要な役を演じているのは感慨深かった(もちろん、三平ちゃんの北山雅康や米倉斉加年も!)。
「アナと雪の女王」の大ヒットで改めてその歌唱力、演技力が評価された松たか子と、「花子とアン」でお茶の間の認知度が一気に上がった黒木華が出演していること、そして「集団的自衛権」の容認によって日本の将来に不安が生じ始めた今、この作品が世に出たことは大きな意味があるような気がする。
作品データ
監督:山田洋次 出演:松たか子、黒木華、片岡孝太郎他
製作年:2014年 製作国:日本
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